Keep Innovating! Blog
目次
■プラモデルブーム到来
いま、プラモデルが売れているそうです(参考記事:https://www.asahi.com/articles/ASNDW3T9XND8UTPB00R.html, https://hobby.watch.impress.co.jp/docs/news/1323711.html )。
プラモデルは自分で組み立てて楽しむホビーです。時間と手間がかかるものですので、やはり、コロナ禍による「おうち時間」の増加による影響が大きいようです。
数年前まで先細りが心配されていたプラモデル業界ですが(https://response.jp/article/2018/06/14/310854.html )、180度の転回といっても良いような状況のようで、ほんと、世の中なにが幸いするかわかりませんね。
私もここ最近、プラモデルに再び興味を持つようになりました。子供のころに少しやっていたのですが、大人になってからは遠ざかっていましたので、数十年ぶりのことです。しかしその理由は、おうち時間が増えたから、という物理的理由ではありません。
そのきっかけは、からぱたさんというプロのモデラーの方のブログでカルチャーショックを受けたからです。
■からぱたさんとの「出会い」
最初に「からぱた(https://twitter.com/kalapattar )」さんを知ったのは、彼が書いている「超音速備忘録」という模型系ブログでした。
まず目にした記事は「模型で作った模型の模型」という一見意味不明なタイトルの記事(https://wivern.exblog.jp/27092610/ )です。(この記事は傑作なので、ぜひ読んでみてください!)
はじめはプロのカメラマンでもあるからぱたさんによる模型の美しい写真に惹きつけられて読みはじめたのですが、他の記事も読み進めるにつれて、写真よりも語られている内容がさらに面白いぞ!ということに気き、どんどん引き込まれていきました。
からぱたさんのプラモデルを語る視点や発想がとても新しく、面白いのです。それは私が抱いていたプラモデルに対するイメージをどんどん塗り替えていき、新しい価値を感じるものに変化させてくれました。これはまさにイノベーションそのものだ!ということで当ブログで紹介してみたいと思いました。
#ちなみに、からぱたさんは、その後、超音速備忘録の他に、模型専門の WebメディアとしてNippper(https://nippper.com/) を立ち上げられて、今はそちらメインで記事を書かれているようです。
■昔のプラモデル趣味はどんな感じだったか
からぱたさんの発想を具体的に紹介する前に、あまりよくご存知ない方のために、プラモデルというホビーが昔はどのように捉えられていたのかを説明しておきたいと思います。
#これを先に説明しておかないと、この後の話が分かりにくいと思いますので。
その昔(私が知っている1980〜1990年ごろ)、プラモデルの価値観は、「いかにリアルで精密な模型を完成させ、その完成品を見たり見せたりして楽しむ」というところに集約されている感じがありました。いわば完成品というモノ中心の価値観だったのです。そのため、完成度の高い模型を作れる人・技術こそがエライのである、という共通認識があったと思います。
本記事では、このような価値観を古典的プラモ観と呼ぶことにします。そしてもちろん、からぱたさんが提唱されているのは、これに対するアンチテーゼとなる世界観です。
■からぱたさんが示すプラモデルの楽しみ方イノベーション
ここから私がからぱたさんの様々な記事を読んで「これは凄い」と思ったプラモデルの楽しみ方のイノベーションを3つのキーワードで紹介していきたいと思います。
#なお、これらはあくまでも現在はプラモ素人である私の解釈によるものです。プラモデルのマニアの方には当然の事柄かも知れないことをお断りしておきます。
(1)「刺し身」で楽しむ
最初に紹介したいのが「刺し身」です。
からぱたさんによれば、プラモの「刺し身」とは、ランナー(部品同士をつないでいる枠)から切り取った部品を「特に何も手を加えずそのまま使う」という意味です。
前述の古典的プラモ観では、完成度を高めるために部品はバリ取りや洗浄などをやって表面をきれいにするなど、色々と手を掛けてから使うのが当然でした。からぱたさんは、そういう面倒な作業はやめて「刺し身」で楽しんでも良いのでは?と提案されています。これは私には非常に「目からウロコ」でした。
刺し身でプラモデルを組み立てると、スピーディーに組み立てることができ、「組み味」(後述)を短時間で濃縮して味わうことができます。ユーザ体験の向上につながるわけです。
記事例:「FUJIMIのフェラーリの刺し身」(超音速備忘録 https://wivern.exblog.jp/29626087/ より)
(2)「組み味」を楽しむ
次に紹介したいのが、「組み味」です。
プラモデルを組み立てていく過程でユーザが感じる一連の感触や気持ち、さらに、組み立てることによって対象物の造形や構造に対する理解が深まっていくこと、などを総合したユーザ体験のことを、からぱたさんは「組み味」と呼んでおられます。
実際、様々なプラモ製品のレビュー記事で、からぱたさんは「組み味」についてしばしば言及されています。パーツ分割のされかたや、パーツ同士の組み合わせ精度、組み立て順序などによって様々に「組み味」が変わる様子が説明されています。
また、組み味を楽しむためだけに一個のプラモデルを消費してしまう、というやり方もよく披露されています。たとえば、同じプラモデル製品を複数個購入して、一つは組み味を楽しみ(そのとき、たぶん部品は「刺し身」状態でしょう)、もう一つは塗装してリアルな完成度を楽しむ、といったやり方です。
さらには、プラモデルの設計者(メーカーの人ですね)が、どのような気持ちでこの組み味を出したのか、という設計論にまで考察が及んでいることがあります。凄い・・・
これはもう古典的プラモ観とは完全に別物。プラモデルを一種の体験メディアとして捉えられていることが分かります。
記事例:「飛行機プラモの歴史を塗り替える超精度/タミヤ1/48ファントムで味わう接着のエクスタシー。」(nippper https://nippper.com/2021/07/33858/ より)
(3)「未組立て」で楽しむ
最後に紹介したいのが「未組立て」です。
なんと、プラモデルの根幹とも思える「組立て」にまで、からぱたさんは発想の転換を促します。
これは読んで字のごとく、買ってきたプラモデルを組み立てずにそのまま楽しんでしまおうということです。
からぱたさんの記事に非常に多く登場するのがランナーにつながったままのパーツの写真。つまり未組み立てプラモデルの写真です。
他の模型系のブログでは、組み立ての様子や完成品の写真がメインのものが多いですが、からぱたさんの記事は、ランナーだらけといっても過言ではないぐらい多いです。そして、その写真は美しく丁寧に撮影されていて、未組み立ての状態を楽しんでおられる様子が伝わってきます。
この、ある意味ショッキングな楽しみ方を見て、自分の中にじわじわと気づきが広がってきました。そもそもプラモデルって何が楽しいのでしょう?
いろんな角度の楽しみ方があるでしょうが、少なくとも核にあるのは「手軽に物理的に実在する3次元の緻密な造形物を見たり、手にとったりして楽しむ」ということになると思います。写真や動画やVRなど、他のメディアにはないプラモデル特有の要素です。しかし、それは完成品でなくとも味わえるよ!という気づき。そして、これを言語化したからぱたさんは凄いと思います。
■まとめ:プラモデルから「モノからコトへ」のイノベーションに気づく
前述のように、古典的プラモ観が「モノ」中心の価値観だとすれば、からぱたさんが提示されている新しい楽しみ方は「体験」が中心となっているものが多いです。このことは、マーケティングの世界で最近よく言われる「モノからコトへ」という消費の変化に似ています。それになぞらえれば、プラモデルのコト化ということになるでしょう。
今回ご紹介したのはごく一部ですが、からぱたさんが展開されている様々なプラモデルの楽しみ方は、プラモデルという古くからあるホビーも、新しい考え方や方法論を組み合わせることで、新しい価値を創造できることを鮮やかに示してくれています。
これらは見事に本来のイノベーション=(狭義の)技術革新じゃないほうのイノベーションの具体例になっていることに注目してください。(参考:wikipedia:イノベーション )
イノベーションというと、技術的な発明・発見の話だと思われがちですが、それは「技術革新」という狭い解釈です。イノベーションの本来の意味は、古くから存在するモノや仕組みであっても、そこに新しい考え方を導入して新たな価値を生みだすことです。からぱたさんのプラモデルの新しい楽しみかたは、まさにこの本来の意味でのイノベーションなのです。
今回書きたかったことは以上です。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
プロフィール
著者:寺田英雄
株式会社オープンストリームCTO/技術創発推進室 室長/電気通信大学特別研究員
画像処理ソフトウェア開発歴30年以上。最近はディープラーニング応用の研究開発に取り組んでいる。
以前はC++プログラマーだったが、最近はもっぱら Python しか使わなくなった。でも、今でもネィティブコードの感触が好きである。
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